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東京高等裁判所 昭和39年(行コ)28号 判決 1967年3月31日

控訴人(原告) 大河原幸作 外一名

被控訴人(被告) 東京都杉並税務事務所長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が、控訴人らに対し、昭和三七年一一月七日付で不動産取得税金七六万五、六六〇円を賦課した処分を取消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

控訴代理人は、請求原因として、次のように述べた。

一、亡大河原房次郎の相続人である控訴人両名は、訴外有限会社大和不動産(以下訴外会社という。)との間で、売主房次郎買主訴外会社間の東京都杉並区高円寺六丁目六三七番の一宅地五八三坪三合七勺外二〇筆の土地(以下本件土地という。)に関する昭和二六年一〇月一三日付及び同年一一月二日付売買を昭和三五年一〇月六日合意解除し、右土地の返還を受けたところ、被控訴人は、控訴人らの本件土地の取得に対し、昭和三七年一一月七日付をもつて控訴人らに対し不動産取得税金七六万五、六六〇円を賦課した。控訴人らは、右賦課処分につき、東京都知事に審査請求したが、昭和三八年三月一二日付で審査請求棄却の裁決が為され、右裁決は、同月一七日控訴人らに通知された。

二、右賦課処分は、次の理由により違法であり、取消されるべきである。

1、前記合意解除は、要素の錯誤により無効である。すなわち、房次郎は控訴人らに相続税が賦課されるのを免れしめる目的のために訴外会社を設立して、同会社に本件土地を売渡したのである。訴外会社は、本件土地の管理を唯一の目的とするものであるので、本件土地の借地人らは会社設立の目的が公序良俗に違反するとして、静岡地方裁判所沼津支部に訴外会社の解散命令を申請し(同庁昭和三五年(ヒ)第五号)たので、控訴人ら及び訴外会社は、相続税脱税の事実があると思い、本件土地の返還を受け、自発的に相続税を納付せんとして、合意解除したのであるが、その後右脱税の事実がないことが判明したので、右合意解除は、契約の重要な部分に錯誤があつて無効であり、控訴人らは、本件土地を取得していない。

2、仮りに、錯誤の主張が容れられず、合意解除が有効としても、合意解除による本件土地の原状回復は、課税要件たる不動産の取得ということができない。

被控訴代理人は、答弁として、一の事実は認める、二の1、の事実及び二の2、の主張は争うと述べた。

(証拠省略)

理由

請求原因一の事実は、当事者間に争がない。

控訴人らは、控訴人らと訴外会社との間の合意解除が要素の錯誤により無効であると主張するが、控訴人らが相続税脱税の事実がないのにかゝわらず、右事実があると誤信したとの事実は、これを認める証拠がないばかりでなく、当裁判所が控訴人有限会社大和不動産被控訴人国間の当庁昭和四〇年(ネ)第一八八六号所有権移転登記抹消承諾請求控訴事件(原審東京地方裁判所昭和三九年(ワ)第一〇五九七号)を審理した結果、三井由春外四名が、静岡地方裁判所沼津支部に訴外会社を相手方として、申請した同支部昭和三五年(ヒ)第五号解散命令申立事件につき、弁護士木暮勝利は、被申請人たる訴外会社の委任により代理人としてその処理に当つたが、同裁判所より訴外会社の実態の立証を求められ、調査したところ、訴外会社は、昭和二六年九月二七日設立以来約一〇年間ノート一冊以外なんらの帳簿も備付けず、その財産としては、本件土地のほか何物もなく、代表取締役市島徹太郎は、単に名自のみの存在で、控訴人大河原幸作が、社員でないのにかゝわらず、同会社の実権を一手に握つており、本件土地を含む房次郎所有土地の管理のみを目的として設立され、本店を形式上静岡県伊東市に置く等なんら実体のない会社であることが判明したので、解散命令を受けることは必至であると考え、解散となれば本件土地を処分せねばならない関係上、むしろ解散命令を待たずに本件土地を処分した上訴外会社自ら解散して前記紛争の収束をはかるに如かずとし、控訴人大河原幸作、訴外会社代表取締役市島徹太郎らと善後策を相談の末、本件土地を売買等により控訴人らに移転する場合課せられるべき税の負担を考慮し、法律上権利移転の効果なきに帰する房次郎と訴外会社との間の前記売買契約の合意解除により本件土地を房次郎の相続人である控訴人らに復帰せしめることが課税される虞れの少い最良の方法としてこれを採ることに決したこと及びその際右合意解除に対しても課税せられるときは、これに対処すべき方法を後日別途講ずべき旨を打合わせ、合意解除の契約書を作成し、それに伴う解散登記等一切の手続には控訴人大河原幸作自らこれに当つたことは、顕著な事実であるので、本件合意解除は、要素の錯誤に基くものとはいえず、又、本件合意解除は、つとに履行が完了し、契約の目的を達した大河原房次郎と訴外会社との間の本件土地の売買契約についてなされたものであつてその実質は、訴外会社と控訴人ら間の売買と異らないのであるから、地方税法第七三条の二にいわゆる不動産の取得に該当するものというべく、本件賦課処分には、違法があるというをえない。

されば、控訴人らの本訴請求を棄却した原判決は相当にして、本件控訴は、理由がない。

よつて、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第九三条第一項本文、第八九条に則り、主文のとおり判決する。

(裁判官 仁分百合人 池田正亮 小山俊彦)

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